- 独自カリキュラム+MOOCが生み出す新しい学び
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他大が提供するMOOC講座を、従来のカリキュラムの反転学習の教材として 部分的に取り入れたのが東京工科大学コンピュータサイエンス学部である。導入の背景には、学生の語学力や学力のバラつきといった課題があった。その1つの解決策としてMOOCの利活用を決めた同学教授の亀田弘之氏に話を伺った。
- 講座名
- :慶應義塾大学『インターネット』/講師:慶應義塾大学 村井純教授
- 講座開講
- :2014年5月
- 科目名
- :『インターネット』
- 対象
- :東京工科大学コンピュータサイエンス学部2年生
- 学習者数
- :150名×2クラス (平成26年度実績)
- 運用方法
- :動画講義(SPOC利用)+反転授業
- 担当講師
- :亀田弘之氏 東京工科大学コンピュータサイエンス学部 学部長・教授
東京大学大学院工学系研究科 電子工学専攻博士課程単位取得の上満期退学 工学博士 研究分野は「思考と言語」
- 授業教材としてのMOOC講座導入の背景
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学生のモチベーションアップと課題解決
JMOOCが本格始動しコンテンツが出始めた2014年春、東京工科大学コンピュータサイエンス学部では、授業内でのMOOC利用について議論を始めた。「MOOC講座を学内で一から作ることは、私たちには少しハードルが高いところがありました。しかし視点を変えてみると、既存のMOOCを活かした新たな教育ができるのではないかと、利活用の道を探ったのです」そう語るのは、学部長の亀田弘之教授である。
またこの時、MOOC導入のきっかけとして、学内で抱えるいくつかの課題があった。それは、「まず、コンピュータサイエンスを学ぶ中で、学生の学力の二極化がありました。また近年、本学では中東や東南アジア諸国などからの外国人留学生も数多く学んでおり、語学力や学力のバラつきという課題もあります。そのような多様なバックグラウンドの学生たちが一緒に学ぶ中で、MOOCを取り入れた学習は解決への糸口になると考えたのです」と、亀田教授は話す。
既に同学では、プログラミングの科目で動画講義を取り入れた実績があり、一定の成果を得ていたことも背景にある。授業の他に予習として動画講義を見ることに対して、学生、教員の双方に下地が出来ていたという。こうして授業へのMOOC導入に向けての検討が比較的スムーズに進み、さらに全学でのFD(FacultyDevelopment:教育能率開発)の機運の高まりもこれを後押しした。
いくつかのMOOC講座を検討した結果、慶應義塾大学・村井純教授が提供する『インターネット』講座の利活用を決めた。「インターネットにおける世界的な権威である村井先生の講義が聞けるというのは、学生、特に上位層の学生たちにとっては大きなインパクトがあり、よりモチベーションが上がると考えたのです。試すだけの十分な価値がある講座だと判断しました」(亀田教授)
- 利活用と運用方法
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MOOCを組み込んだ折衷案
東京工科大学での利活用スタイルは、学内の独自カリキュラムに部分的にMOOC講座を組み込んだ折衷型だ。その運用方法を見てみよう。今回対象となったのは、コンピュータサイエンス学部2年生の後期カリキュラムの一つ、インターネットをはじめて学ぶ学生向け科目『インターネット』の授業である。かつては資料を配布して授業を行い、提出課題と期末テストで評価するという一般的なスタイルの授業だった。ところが、授業にMOOCを導入したことで、その授業形式が大きく変わることとなる。
まず、学生がMOOCで動画を見るにあたり、同学専用のアカウントを発行するSPOC(SmallPrivateOnlineCourses:大学や企業内での非公開オンライン講座)形式を採用した。これによりログインした学生のみが講座にアクセスできると共に、教員側が学生のログイン情報をチェックできるようにした。
2014年度の授業では全15回のうち5回で「MOOC講座+反転学習」の授業を実施。担当教員は授業の1週間前に、事前に視聴すべきMOOC動画を指定し、学ぶべきポイントも示してテーマを明確化した。さらに動画を見れば回答できる課題と、インターネットや書籍を駆使して自主的に調べる必要のある課題の2種類を予習として課し、学生のモチベーション向上をねらった。
その後の教室での反転学習は学生主体で進め、教員は2人で円滑にディスカッションが進むよう各グループを回りながらサポートに徹した。「5年ほど前からアクティブラーニングを授業に取り入れてきた本学では、学生同士がより学びあえる場を設けたいという想いがありました。このアクティブラーニングの観点からもMOOC講座+反転学習の形式は有意義な授業が展開できると期待したのです」(亀田教授)
- 今後への道筋
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自ら学び続けることの大切さ
刻一刻と変化を遂げるコンピュータサイエンスの分野では、エンジニアとして社会に出た後も、本質まで深く掘り下げて自ら学び続ける必要があるという。
「世の中も、コンピュータの世界も猛烈な勢いで変わる中、今学んでいるプログラム言語は数年後には全く使われていない可能性もあります。そのような現代において学生たちが将来活躍するために必要なことは何か?それは自ら意欲的に学びつづけ、変化にすぐに対応できる力を習得することです。こうしてMOOCを使った学習習慣を身に付けさせることに、私たちは大きな意味があると考えています」と語る亀田教授は、今後も積極的にMOOCを取り入れたいと意欲をみせた。