講座活用事例 東海大学大学院 海洋学研究科

講座活用事例


大学院生向けMOOCという新たな試みと可能性

東海大学では、2015年に行われた同大大学院での改組がきっかけとなり、大学院での利用を前提としたMOOC講座を制作した。このMOOC講座制作を主導した海洋学部長の 千賀康弘教授に講座開設のねらいを伺った。

千賀康弘氏 東海大学海洋学部学部長・海洋地球科学科教授
講座名
東海大学『海から考えるこの星の未来ー海洋学への誘い』
講座開講時期
:2015年2月
全体修了率
:17.8%
科目名
:『総合海洋学特論』
対象
:東海大学海洋学研究科 修士課程1年
運用方法
:講義動画の事前視聴+反転授業
担当講師
:千賀康弘氏 東海大学海洋学部学部長・海洋地球科学科教授
大阪大学工学部応用物理学科卒業 博士(工学) 1989年東海大学海洋学部に赴任 専門は海洋分光計測
講座制作の狙い

多様な“海洋”の知を養う講座

日本で唯一の海洋学部と海洋学研究科をもつ東海大学の研究者17名が“海の関わりの大切さ”をテーマに説く。それが同学のMOOC講座『海から考えるこの星の未来ー海洋学への誘い』である。この講座の制作のねらいについて、海洋学部長の千賀康弘教授は次のように話した。
「地球環境や生物多様性、領海、海底資源など、様々なテーマが複雑に絡みあう海洋研究は、本来、文理や学問系統の枠組みを超えた壮大な知の集合体です。だからこそ本学では4専攻に別れていた大学院海洋学研究科を海洋学専攻の1つにまとめ、海洋に関するあらゆる分野を横断的に学べる体制を整えました。そこで改めて必要となったのが、修士課程に進んだ学生を初めから専門漬けにするのではなく、まずは第一段階として“海洋”への多様な視点を養うこと。そのような海洋への理解を深めるための科目『総合海洋学特論』を大学院で立ち上げるにあたり、私たちはMOOCを活かせると考えたのです」

講座活用方法

反転授業が活きた知の交流の場に

MOOC講座『海洋学への誘い』は一般への公開を終えたのち、同学大学院修士課程の15コマの必修科目『総合海洋学特論』での利活用が進められた。「反転学習」とセットで実践したその運用方法は次のようなものだ。

まず「総合海洋学特論」を受講する学生はあらかじめ各コマに該当する動画を視聴し、基礎知識を習得する。その後の反転学習では、教員が最初に動画の講義内容を補足する解説を加えた後、授業の要であるグループディスカッションへと移る。学生は事前に得た知識を応用しながら議論を通じて理解を深め、自ら問題を提起し、解決までのプロセスを実践的に学んでいくのである。

「当初の目論み通り、この講義は学生がさまざまな教員陣と交流し、出身学科も興味も異なる仲間同士で刺激し合いながら議論しあえる場になりました。修士に進むと、専門分野や人間関係の面で、最初から最後まで狭く偏りがち。その壁を打破する意味でも、大きな手応えがありました」(千賀教授)

講義動画配信後の運用方法が鍵。レベル感の調整が可能に

さらに注目すべきが、今回のMOOC講座でのレベル設定である。大学院での利活用を念頭に制作した講座ではあったものの、東海大学が一般公開するMOOCとして受講対象者に想定したのは「文系大学卒業程度の一般社会人」や「海に興味のある高校生」だった。微分積分を使った難解な数式は極力控えて高度な現象は明解に図式化し、各講義が専門用語の解説だけに終始することもなかった。あくまで海洋学のエッセンスを伝えるべく、幅広い人々に向けても、対象を絞った大学院生に向けても、「海洋の魅力を伝える」という同じコンセプトに徹したのである。

千賀康弘氏 東海大学海洋学部学部長・海洋地球科学科教授

ここでキーとなるのが「その後の運用方法」だ。「MOOC講座で発信しようとしていたレベル感と大学院生向けの『総合海洋学特論』で目指したレベル感とでは、基礎知識をつくる講義動画のテキスト部分だけみると、あえて別個にする必要はないと考えました。そしてMOOCであれば『課題』、大学院であれば『反転学習』と、講義動画のあとの運用次第で、それぞれに適したレベルで十分に調整できることが分かりました。つまりその後の運用で学習者のレベルに応じた問題設定や解説が的確にできていれば、レベル感の違いはクリアできるのです」と千賀教授は言う。現に受講後のアンケートを見てもMOOC学習者、大学院生、それぞれで高い満足度が見て取れる結果となった。配信後の運用を変えるという方法で、今後、大学における授業での利用はもちろん、高大接続教育、社会人講座など、さらなる可能性も見えてくるという。

講座制作の成功要因とその効果

成功へのキーポイントは教員による度重なる議論と作り込んだシラバス

こうして同講座が成功した要因は、約1か月かけて教員が議論を重ね、講座全体の見取り図となる「シラバス」がしっかりできていたことが挙げられる。 「大学院レベルにも通用するプログラムを組むのは、一筋縄ではいかない点も数多くありました。しかし今回のMOOC制作を機に自分の専門を考えながらどのようなプログラムを組むのか、教員が一緒になって議論する機会ができたことは収穫です」と、千賀教授はMOOC制作へのメリットを語った。