講座活用事例 TAC株式会社

講座活用事例


相乗効果が確認できたスクール事業とJMOOC講座

JMOOCでは、高等教育機関の有する専門教育知識のみならず、企業の有する実践・実学的な知識の提供を積極的に推進すると謳っており、2015年4月からはJMOOC講座の提供主体が大学以外にも広がり、企業等の提供する講座が増えている。そのひとつ、 資格スクール事業大手のTAC株式会社も、今では再開講を含め10講座以上を提供している。今回、JMOOCに参加した背景とその効果について話を伺った。

TAC JMOOCプロジェクト プロジェクトリーダー 佐藤征一郎氏
担当者
:TAC JMOOCプロジェクト プロジェクトリーダー 佐藤征一郎氏
講座提供の背景

CSRの考え方と新しい事へのチャレンジ精神

講座の運営をビジネスとしているTAC株式会社にとって、JMOOCで無料講座を配信することはどのような意味を持っているのだろうか。
「最も根本的なところでは、世の中の教育機会の平等に貢献したいというCSRの発想がJMOOCに参加した一番の理由です」と、JMOOCプロジェクト プロジェクトリーダーの佐藤征一郎氏は話す。

TAC JMOOCプロジェクト プロジェクトリーダー 佐藤征一郎氏「教育に携わっている当社にとって、誰もが学び、幸福になれる社会の実現に貢献することは大きな意味があります。またそれに加えて、日本の教育事業は『少子化』『人口の減少』というたいへん厳しい現実に向き合っています。将来に向けこうした環境にどう対応していくかは、とても大きな課題です。当社でも事業戦略として積極的に新しい試みにチャレンジしていこうという方針を持っていますが、JMOOCもその一つと捉えてみようという部分もありました。MOOCそのものが新しい試みですから、今後どのような展開になっていくのか予測することは困難です。しかし『まずはやってみよう』というのがスタートでした」(佐藤氏)

提供講座の選定方法

有料講座とほぼ同じものを提供

講座配信のコンテンツをどうするかという点については議論を重ねたという。講座のレベル感については「数が集まらなければTACのブランド力が問われる」からと、学習者が集まりやすい人気講座を中心にリストアップ。また、受講料自体は無料のため、学習者に高いモチベーションを期待するよりも続けてもらえることを優先して、入門編の講座を中心に選定した。そして内容については、「さわり」だけを展開するのではなく、TACで実際に開講している有料講座とほぼ同じ内容のものにすることに決めた。
「講座の内容については、社内でもかなり議論がありました。入門編とはいえ人気の高い講座ですから、売上金額の実績もかなりの額にのぼります。無料で配信することで事業に打撃はないのか、有料で受講している方々からお叱りの声が出るのではないか・・・。検討を重ねた結果、最終的にはTACの講座である以上、中途半端なものを出してしまっては、マイナスの効果が大きいという判断をしました。やるならとことん本気でいこうということです」(佐藤氏)
TACでは再開講を含めて10講座以上の提供を行っているが、内容についてはほぼ有料講座と同じものになっているという。

講座提供の効果

物販・送客・PRの効果を狙う

「ただ、事業会社として収益化は考える必要があります。そこで当社が想定したのが、1.参考図書の物販、2.本講座への送客、3.ブランドPRの3点です。さらに開発した講座をSPOC(SmallPrivateOnlineCourses:大学や企業内での非公開オンライン講座)利用で企業研修として販売できないか、ということも検討しております」(佐藤氏)

想定した各項目は、いずれも効果を上げている。まず物販では、図書の販売部数において、簿記が対同時期比で107%、FPも含まれる金融・不動産部門では実に146%という売上を記録した。
また、これまで開講した講座のデータを見ると平均修了率は22%、アクティブユーザーに対する修了率は71%と、きわめて高い値を記録している。これは講座の満足度がとても高いことを表していると考えられ、本講座への集客もある程度の実績を残している。

「JMOOC講座の開講で一番の懸念点は既存有料講座への影響でしたが、これはほとんどありませんでした。学習者プロフィールを見ても50代以上の方の割合が多く、TACがこれまであまりリーチできていなかった層にうまくアプローチできたからでしょう。
TAC JMOOCプロジェクト プロジェクトリーダー 佐藤征一郎氏送客を見ても70代の方がTOEIC900点講座に申し込んでいただけているなど、これまでまったく想定していなかった動きが起きています。ただ、簿記講座などはこれまで3回開講していますが、回数を重ねるごとに学習者は減少しています。しかし一方で若い世代が増え、修了率と送客率が上がるといった変化も見られています。単年で判断するのではなく、継続して状況を見ていく必要があると考えています」
(佐藤氏)

今後への抱負

SPOC利用で企業研修市場への参入も

「次年度に向けては、これまでの講座の再開講を中心に行い、学習者推移のデータを集める予定です。その上で事業化できるどうかを検討することになるでしょう。SPOC利用の企業研修への進出については既に検討を始めており、LMS(LearningManagementSystem:受講管理)の仕組みをプラットフォーム側と考えているところです。これを成功させるために企業ニーズが高いMOOC講座を新しく作るといったことも視野に入れています。今後どの方向に進むにしても、学ぶ機会をなるべく多くの人に提供して幸福な社会の実現に寄与したいというのが当社の想いです。JMOOCの活動を継続的なものにしていきたいと考えています」と、佐藤氏は2016年度に向けての豊富を語った。